ベイエリアにいる友達はまるで家族のように深ーーく丁寧に私をケアしてくれます。日本だったら「身内」で済ませるようなことも、困った時はすぐに飛んで来てくれる、頼れる存在です。日本での私のネットワークの広さを知っている人は驚くかもしれないけれど、その数はすごく限られてます。だけどその分、1人ひとりと過ごした時間が長く、近所の幼なじみみたいな感覚が育ちました。毎日飽きもせずにつるんでたなー。カフェに行ったり、家で映画を見たり、一緒に八百屋さんにお買い物に行ったり。何かをするための目的意識のもとに集まった仲間じゃなくて、ただただ日常を共に送る仲間。仕事や学校が終ったら、”what’s up? wanna hang out?” と電話して、友達の家に行って、ゆっくりと夜を過ごす。
その中でもロシアン・ジュー(ユダヤ系ロシア人)のEugene、通称 Zhenyaとは悪友というかアホ仲間というか、兄であり弟であるような大事な人です。
ロシアンジュー、と一口で言っても様々な人種、民族がいます。ロシアは広大な土地を持っているので、世界のあらゆる民族系統の人がいるんじゃないか?!ってくらい顔にバラエティーがあります。東欧系、スカンジナビアン系、ゲルマン系、ラテン系、モンゴル系、中国系などなど。黒人のロシア人は個人的には会ったことないけれど、いるのかな?また、ユダヤ人とは、ユダヤ教を信仰している人のことであってもはや民族的な区切りではないので、これまたバラエティーに富んでいます。
Zhenya の場合、血筋はフランスに遡ります。Zhenya という名前はEugeneのロシア語版であるYevgeny の省略形で、親しみをこめて呼ぶニックネームです。Yevgenyのフランス語形がEugeneというわけ。
Zhenyaのご先祖様はユダヤ教徒としてフランスからウクライナに渡りました。だから彼はウクライナ出身。その後、お母さんと一緒にアメリカに移りアメリカ国籍を取得した移民2世です。だけど、アメリカに渡ったのが15歳だったので、 彼のアイデンティティはロシア人です。(ウクライナ出身の人でも、自分をロシア人と見なす人とウクライナ人と見なす人、それぞれいるようです。)アメリカの不思議♪
日本語で名前の下に「ちゃん」「君」をつけて愛情や親密さを示すように、ロシア語では “chka” を名前の最後につけます。私はZhenyaのことを”Zhenychka”、彼は私のことを “Nahochka” と呼びます。
ロシア語を理解することは到底不可能だったにもかかわらず、ロシアンジューに囲まれているのが何故だか心地よく、Zhenychkaを始めとるすロシア人コミュニティとしょっちゅう一緒にいました。彼らは「ロシア人以外に友達いないのかよ!」ってくらい飽きもせず凝りもせずいっつも顔を付き合わせています。友達みんなが兄弟姉妹のような関係で、だらしなさも曝け出すし、言い争いもしょっちゅうします。酔っぱらって意識を失って粗相したのをs wordをぎゃーぎゃーとわめきながらも後始末したり、風邪を引いたらスープを持っていったり、一緒に会社をやったり、キャンプに行ったり、人生相談に乗ったり、バカにし合ったり、取っ組み合いの乱闘をしたり、ふざけあったり、抱きついたり、キスをしたり、歌ったり、踊ったり。(ロシアンジューは男性同士でも女性同士でも、愛情のある友達同士ではハグやキスをします。)
Zhenychka の生い立ちは私とまーーーーーったく違います。自国が政治的/経済的(共産党独裁支配やペレストロイカ)にも、環境的(チェルノブイリ原発事故)にも崩壊し、「国民」としての立場を失い、「人間」としてもギリギリの生活に追いやられたのでアメリカへ亡命しました。家庭環境だって事実は小説より奇なりを地で行く複雑さだし、20代の経験も壮絶。だけど、心が求めるもの、精神とは何か、世界はどんな風にできているか、そういった根源的な価値観を奇妙なほど共有しているのです。ユダヤ教と仏教などの東洋思想には多くの相違点があるので、私たちの神や魂といったものの解釈は一致してる。笑いのツボも驚くほど似てます。日本人とロシア人は、アメリカ人や他のヨーロッパ人が持ってない、くっだらないことをおもしろおかしくしたり、自虐ネタでウケを狙う、という共通点がある気がします。ま、私が仲いいロシア人はって修飾句がつくけれども。
ベイエリアに生息するロシアンジューはlaid backもいいところなので、なかなか決まらないし、立ち話始めたら動かないし、出発しようって言ってから2時間くらいかかったりするけど、居心地がいいのです。なんでだろー。
文化論を学んだ人なら知っているかもしれませんが、各国の文化がどんな特徴があるかを知るための指標があります。古典的なのがHostedという学者の提唱した5つのメジャメント。
- 「個人主義」対「集団主義」(IDV: Individualism)
- 権力の格差 (PDI: Power Distance Index)」
- 不確実性の回避 (UAI: Uncertainty Avoidance Index)」
- 「男性型」対「女性型」 (MAS: Masculinity)」
- 長期的志向 (LTO:Long-Term Orientation Index)
例えば日本の場合、集団主義の数値がもっとも高い国文化の一つです。だからIDVは低く出る、といった具合。権力の格差は中くらい。不確実性を回避しようとする傾向が非常に高く、最も男性的な社会で、長期的な視野に立って物事を考える文化、と言われています。
ロシア人も日本人も1番の「集団主義」を重んじる民族。このcollectivenessを重んじる精神が、居心地の良さに繋がっているのかも。