先日、Art of Hostingというワークショップにてグラフィック・レコーディングしてきました。
たった1行に聞き慣れない言葉がたくさん詰まっていると思いますが、まず、Art of Hostingとは、ワールドカフェ、オーブンスペーステクノロジー(OST)、サークル、Appreciative Inquiry (AI) といった「対話」を促すためにデザインされた「仕組み」を、複数組み合わせることによって、私たちの自己観察力を深め、思考パターンの転換を図り、また、一緒にワークショップを受けている人同士の絆を強めてくれる1つの方法論です。最終的に、社会に影響を及ぼすための「行動」を生み出すツールです。リーダーシップ育成、組織開発、国家レベルでの社会変革などにも用いられている、文字通り、実践的な「技術」です。(この場合の”art”とは、芸術ではなく技術を意味します。)
Art of Hostingの第1人者、Bob Stilger氏がアメリカより来日し、初めて日本でワークショップを開いてくれたんです。そこで、Art of Hostingってどんなことをするのかね?ということを説明するような記録を作ってと欲しい依頼され、参加してきました。
(graphic recorded by Naho Iguchi)
(graphic recorded by Naho Iguchi)
グラフィック・レコーディングというのは、1人の講演でも、10人のミーティングでも、50人のワークショップでも、数百人のイベントでも、種類や規模は何でもいいんですが、誰かが話しているものを、その場で聞きながら同時進行で言葉、アイコン、チャート、絵などを使い、文字の色やフォントデザインも変えながら、大きな白い紙の上に記録していくことです。
グラフィック・レコーディングは、もともとグラフィック・ファシリテーションというものから生まれました。レコーディングは「記録」すること。一方、ファシリテーションは、ミーティングやパネルディスカッションなどを「進行」することです。英語本来の意味は「促進する」とか「容易にする」。1人以上の人間が集まって会話をする時に、上手な質問をしてみんなに深く考えてもらったり、誰か1人が会話を独占していたら適当なタイミングでスッと入って、他の人が発言できるよう促したり、話の焦点が議題から遠く離れてしまったら、それに気づかせてあげるような言葉を投げかけたり、会話の舵取りをしながら、なんらかの帰着点まで導く役割を担います。
で、
グラフィック・ファシリテーションって何よ?というと、簡単に言えば、上記の2つを掛け合わせたもの。ファシリテーターとしてグループ内の会話をまとめていきながら、一緒にグラフィック・レコーディングもしちゃいながら、与えられた時間の中で目的を達成させるという、1人何役もこなすものです。
どんな場でグラフィック・ファシリテーションが有効かというと、プレインストーミングの質を高めるのにもいいですし、そこから進んで、実行計画案にまで持っていくことにも使えるし、組織の長期/中期/短期目標を決めるのにも使えるし、何か節目の時に過去50年を振り返る、ってな時にも使えます。何層にも折り重なる複雑な情報が飛び交うのを、一枚の大きな紙に、従来のノートやホワイトボードや黒板での単調な記録の取り方とは違った、目で見てパッと感覚に響く情報整理の仕方をしていく。
自分や周りの人が発している言葉が、目の前でライブで記録されていくのを目で読み、再び理解することによって、新しい発見が生まれます。人って、耳で聞いていることって、理解してそうでその実、正確な記憶として蓄積されない場合が多いですし、移り行く言葉の交差の中でどんどん変化していくのが普通なので、話し合いで相互理解や合意が得られたというのもわりと錯覚だったりするんです。本当は、何時間もかけて、何も話し合われていなかった、なんて日常茶飯事。そのことを視覚的にも学ばせてくれるし、さらにファシリテーターが自ら紙の上にまとめた色彩豊かでわかりやすい情報をもとに、混線しがちな会話を「そこそこ、それが必要なんだよ!」という痒いところに手が届く、みたいなポイントへしっかりとガイドしてくれる。だから、グラフィック・ファシリテーションというのは、会話の意義を明確にし、そこに費やす人的資産と時間と労力を最大限に生かすのに役立ちます。
これまでに、企業内のトレーニング、役員の戦略会議、今回のようなワークショップから、トークショーやストーリーテリングなど、色んなところでグラフィック・ファシリテーション及びレコーディングをしてきました。今年はもっと違ったシチュエーション、違ったニーズの中で応用していきたいなと思っています。